に今度いくらでも貰って少しは楽だろうと聞いてみると、うんと云う者は一人もいない。
「俺ら見てえな貧乏のどん底さあいるもんが、おめえ様、三両や五両の銭い貰ったって、どうなりやしょう。嚊《かかあ》は何が買えてえ、御亭《ごてい》はこんが買えてえ。そんですぐはあ夫婦喧嘩で、殴り合ってるうちにはあそのくれえの金あ、皆どうにかなってしまいやす。三日経てば、元の木阿彌で相も変らず泥まびれでやすよ」
 それは、ほんとのことであった。一週間も経たないうちに、町から入った金は、また町へ吸いとられてしまって、彼等はまた元のように三円とまとまった金は持たないようになる。
 ちょっとでも余分なものが入れば彼等はせっせと何か買ってしまう。訳も分らずただドンドンと買ったあげくは、元に幾らかの利子までつけて、町へ返済してしまうのである。
 貯蓄の癖が付いていないので、どうしても蓄《た》める気になれない。まして、銀行とか郵便局とかいう所は、金は取りあげてしまってただ一冊帳面をあてがう所のようにほか思われていないので、あずける者などは殆どない。
 だから、私共が溜めろと云ったところで、聞かれることではないのである。金を貰
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