方へ引っぱっても、
「いんえ、離しゃせん。金輪際《こんりんざい》離しゃせん。どうぞ聞いて下され。ほんに俺らがように……」
と尚強く握って地面にへばりついた。あまりのことに婦人達は、総がかりになって、婆を嚇《おど》したり、すかしたりしたけれども、なかなか離しそうにもない。
皆が、てこずり抜いて、着物の裾を引っぱり合いながら、途方に暮れている様子があまり滑稽なので、周囲の者は、思わずドッと囃し立てた。
そうすると、いきなり人垣の間を分けて、犬のように飛び出した一人の男の子が、
「やーい! やーい! 醜態《ざま》見ろやい!」
と叫びながら、手足をピンピンさせた。
甚助の子である。
その一声に、何か云いたがってムズムズしていた他の悪太郎共の口は一時に開かれた。
「弱《よえ》えなあ。そげえじゃらくらした阿魔ッちょに何出来ッペ!」
「婆様手伝ってんべえか!」
黄色い砂塵に混って、ワヤワヤ云うどよめきの中を、
「お情深え奥様方! どうぞおきき下され。俺らげの気違えと白痴《こけ》野郎が……どうして生ぎて行《え》かれますッペ!」
と婆の声が、切れ切れに歌のように響き渡った。
婦人達はすっかり
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