んざりして来た。
喉が乾いたり、暑かったり、化粧崩れに気が気でなくなった一行が、皆いらいらした気持で或る百姓家の前に来かかったとき、いきなり行手を塞いで焼けつくような地面に坐り込んだ者がある。
あまり突然なことにびっくりして、婦人連は後しざりをしようとすると、すぐ手近に立っていた一人の裾を両手で掴みながら、
「おっかねえもんじゃありゃせん。どうぞお願《ねげ》えをお聞き下され」
と涙声を振り絞ったのは、誰あろう善馬鹿のおふくろである。
婆の後には、善馬鹿と白痴の子がぼんやり立っている。婦人達はまごつき、ついて来た手合は笑いながら立ちどまった。
狒々婆《ひひばばあ》は軋むような声を張りあげた。
「お情|深《ぶけ》え奥様方! どうぞこの気違《きちげ》え息子と、口も利《もと》んねえ馬鹿な餓鬼を御覧下さりやせ」
「どうぞ奥様! 俺らがようなものこそー憫然《ふびん》がって下さりやせ。どこに俺等ほど情ねえもんがありやすッペ。どうぞお恵み下さいやせ」
裾をつかまえられた婦人は泣声を立てて、
「まあ、どうしたのです。さあ、そこをお離し! 行きゃあしませんよ。さあ早くお離しってば!」
と、自分の
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