。奴にゃあ分んねえ」
 娘は、暫くすると、よろよろしながら臭い夜具を引きずって、また暗くじめじめした奥へ引っこんでしまったのである。
 婦人連は、一軒一軒に同じ文句を繰返しては、鷹揚《おうよう》に会釈をし、自分の品を上げるとも下げないほどの同情を表した。
 そして特に会長夫人は、いつも「ええ、そう、そう、そう、そうですよ」と胸まで首を曲げて返事をする代りに、今日は黙って大きくうなずくだけであった。而も心の中では「ああよしよし」とつぶやきながら。
 一行は行く先々で感謝せられ尊敬せられまた驚かされた。
 婦人達は皆、自分の仕事に満足した。
「人にほどこしをするのは、何て面白いのだろう!」
 けれども、だんだん疲れて来ると、同じようなお辞儀だの、お礼だのを聞くのにも倦きて来たし、自分等も一々丁寧に同情を表したり説明したりするのも厭になって来て、仕舞いには、会長夫人がちょっと立ちどまって会釈するあとから、直ぐ金包みを投げ込んで、先へ先へと急行しはじめた。
 後についている者共も、だんだん馴れるにしたがって、婦人達に聞えるほどの悪口を云ったり品定めをしたりするようになったので、婦人達は、益々う
前へ 次へ
全123ページ中80ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング