化粧をして、金を撒いていられる人もある。
何て立派なんだろう!
けれども……。
女達が妙に思ったのは無理もない。町の奥さん方は、ほかは金ぴかぴかでいながら着物は皆メリンスばかりであった。
それは、「質素を旨とし衣服はメリンス以下なるべきこと」という条件があったので、賢明なる婦人達は、その箇条を正直に最も適当に守ったのであった。
やがて婦人共は歩き出した。
派手な色彩の洋傘が、塵《ほこり》だらけの田舎道に驚くべき行列を作った。
第一に止まったのは桶屋の所である。
後をゾロゾロついて来た者共は、先を争って間口一杯に立ち塞がったので、妙に暗く息のこもったようになった部屋の中には、股引一つの桶屋と、破けてボロボロになった「ちゃんちゃん」を着た女房が、幽霊のような娘を真中にして、ピッタリとお辞儀をした。
会長夫人はふくみ声で難かしい漢語を交えながら、今度の自分等の目的を説明した。
桶屋夫婦は、何のことやらさっぱり分らなかったけれども、ただお辞儀ばかりをしていると、会長夫人はちょっと指で合図をした。
すると、中の一人が朱塗りの盆の上に大きな水引のかかった包みをのせて差し出し、
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