のを見ていた。町からこの村へ来る者は、一人一人ここから見えるのである。
 けれども、昼近くなるまで、町の者らしい者は一人も通らなかった。
 ところが、もう十一時頃になって、沢山の人力車《じんりき》が列になって暑そうに馳けて行った。中には、種々な色の着物が見える。町の婦人達の仕事は、これから始まろうとするのであった。
 村の入口で婦人達は車を下りた。そして、会長夫人を取り巻いて、ガヤガヤ歩き出しの相談をしている周囲を、裸身《はだかみ》に赤ん坊を負ぶった子守だの女房共だのが、グルッととりかこんで、だんだん外側から押しつけ始めた。
 貧乏な女共は、びっくりして町の「奥様方」を観た。
 光る櫛の差さった髪、刺繍《ぬいとり》だらけの半襟、または指中に燦き渡っている赤や青や白の指環をながめた。指環をはめていない人はない。皆手に小さく美しい袋を下げている。まあ帯の立派だこと! どんな白粉ならああむらがなく付くのだろう? あら! あんな洋傘《こうもり》もあると見える!
 女共は頭が痛くなるほど羨ましかった。同じ女に生れて、自分等のように死ぬまで泥まびれでいなけりゃあならない者があるかと思えば、こんなお
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