ことには、彼等の着物や何かが昨日とはまるで別人のように、汚くなっていることである。女達は、皆|蓬々《ぼうぼう》な髪をして、同じ「ちゃんちゃん」でもいつ洗ったのか分らないようなのを着ている。裸体《はだか》で裸足《はだし》の子供達は、お祭りでも来たようにはしゃいでいるし、ちっとも影も見せないようにして奥に冷遇されていたよぼよぼの年寄や病人が、皆往還から見える所に出て来ている。
 桶屋でも、あの死ねがしに扱っている娘を、今日は、特別に表の方へ出して、ぼろぼろになった寝具を臆面もなく、さらけ出して置く様子は、私に一向解せなかった。
 村中は、もう出来るだけ穢くなって、それでいて私が今まで一度も見たことのないほど活気づいている。
 けれども、見て歩くうちに、だんだん彼等の心がよめて来た。そして、人間もどこまで惨めな心になるものかと、恐ろしいような情ないような心持になってしまった。
 私は、何だか自分の力ではどうしようもないことが、起って来たような気持になって、家へ帰った。
 家の中は相変らず平和に、清潔に、昔ながらの家具が小ぢんまりと落着いている。
 私は、折々縁側に立って向うの街道の砂塵の立つ
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