いているのを見ると、ほんとうに気の毒になった。
 けれども、二十三にもなった男一人が、物の道理も分らないおふくろの自由にされて、苛《いじ》められても恥かしめられても、ただ一言云い争いもせず、ただ彼女の弁護ばかりしているのを見ると、妙な心持にならずにいられなかった。
 何だか、どこかに私共より偉いところを持っているような気がして、どんなに気の毒だと思っても、他の人々へのように、僅かばかり食物をやったりすることは出来ない。
 道でなど会うと、私はほんとうに心から挨拶をして、丁寧に病気の塩梅を聞いた。
 随分気分の悪そうな顔をしているときでも、彼は、
「おかげさまで、だんだん楽になりやす」
とほか云ったことがなかった。

        十四

 新さんのことがあったので、三十一日はかなり早く来た。二百十日前のその日は、大変に朝から暑くて、鈍い南風が、折々木の葉を眠そうに渡った。
 いつもより早く目を覚ました私は、いつもの散歩がてら村を歩いて見た。
 家々はもうすっかり食事までも済ましている。前の広場だの、四辻だのには、多勢の大人子供が群れてガヤガヤ云って騒いでいる。
 けれども、私の驚いた
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