ないしするので、煙のうちをでも歩くような気がして、何だか不安な、ほんとうに自分の身に後ろ暗い所でもありそうな日を送っていたのである。
 このような有様で、村中の者共は皆非常な興味を以て、事件の裏にひそんでいることをさぐってみようと思っていた。
 私は何にも彼等に関して知っていなかったので、どう想像することも出来なかったけれども、どこにでもある世話焼きが、自分の本職のようにして、せっせとあちらこちらから探りを入れ始めた。
 そうすると、意外にもその問題の俵などは初めから根もないことで、ただ謝罪金《あやまりきん》に今新さんの持っている金を、皆取りあげようとする方便に捏造《ねつぞう》されたものだという噂が、次第に事実として騒ぎ出されたのである。
 新さんは、飛んでもないことだと思って、おふくろを弁護し、その噂を押し消そう押し消そうと掛った。
 けれども、新さんの心はだんだん暗くなって来た。自分の身が悲しく、ほんとにこのおふくろの実の子かしらんという疑いも起って来たのである。
 私は青い陰気な顔をした新さんが、心配でよけい面窶《おもやつ》れしたような風で暑い日中被る物もなしに、村道をボコボコ歩
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