かかると、理も非もなくなる彼のおふくろは、病気だと聞いて、厄介者が何しに来たというように取り扱った。
 それが辛いので、新さんは、町の医者に掛る入費や自分の小遣いなどは皆自分の懐から出して、その上四十円程の金をおふくろに遣りまでした。
 けれども、ときどき不用心に胴巻を投げ出して置くと、僅かずつ中が減って行くということや、大の男をつかまえて、おふくろが何ぞといっては打擲《ちょうちゃく》したり、罵ったりするということまで、私共の耳へ入ったのである。
 それだもんで、村の者は新さんに同情をし、どうしてもおふくろには面白くない噂が立つので、新さんは板ばさみの辛い目に合わなければならなかった。
 ところが、或る日急に新さんはおふくろから、豆を盗んで売り飛ばしたという罪で攻めたてられなければならないことになった。
 正直な彼は大まごつきにまごついて、一体何が誰にどうされたのやらまるで分らないので、返事も出来ずにいるうちに、おふくろの方では村中にこのことを云いふらして歩いた。
 どう考えても新さんにはそのことが分らなかった。いつか、そんなことでもあったかしらと思い出そうとしたところで、まるで覚えは
前へ 次へ
全123ページ中73ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング