したとも思えないで、半信半疑のうちにこのことのなりゆきを見ていたのである。
一体、水車屋は、二年前に亭主が亡くなってからよくない噂ばかり立てられていた。
その時分からもう、北海道に出稼ぎに行っていた新さんを呼びよせもしないで、自分独りですべてを取りしきっているのも皆陰に操る者があるので、隣村の伝吉という同じ水車屋が、僅かばかりの桃林も何も彼も自分の物にして、新さんを追い出しに掛っているということは、誰一人知らない者がなかった。
新さんは、十六の年から北海道にやられて、この五月になるまで、七年の間女房を持てるだけ稼ぎためたら帰って、おふくろにも楽をさせてやり、家の中をちゃんとしたいということばかりを楽しみに、悪遊び一つせずに働いていたのであったそうだ。
ところが運悪く腎臓病になり、医者にすすめられたので、久し振りに帰って来たときには、八十円の金を持って来た。
若いに似合わず感心なことだと、私の祖母なども祝いをやったというほど村中の者に尊敬されていたのである。
けれども、一度借金のことから取り上気《のぼ》せて殆ど狂気になったことがあってからというもの、五厘でも半厘でも金のことに
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