て、泣いたり喚《わめ》いたりしながら、打ったり蹴ったりの大喧嘩が続いた。仕舞いには、何のために、どうしようとしてこんなに大騒ぎをしているのかも忘れてしまったほど、猛り立って掴み合ったけれども、だんだん疲れて来ると共に、殴り合いもいやになって来た。気抜けのしたような風をしながら、めいめいが勝手な所に立って、互に極りの悪いような、けれどもまだ負けたんじゃねえぞと威張り合いながら、いつの間にかこぼれて、潰れたり灰にころがり込んだりしている大切な薯を見詰めていた。
皆、早く食べたい、拾いたいと思ってはいるのだけれど、思いきって手を出しかねていると、喧嘩を始めたなかの子が、押しつけたような小声で、
「俺ら食うべ」
とこぼれたものを、拾い始めた。
これを機《しお》に、ほかの者も大急ぎで拾った。
そして、また更《あらた》めて数をしらべ合うと、今はもうすっかり気が和らいで、かけがえのない一椀の宝物を出来るだけゆるゆると、しゃぶり始めたのである。
これは、町に地主を持って、その持畑に働いている、甚助という小作男の家の出来事である。
二
ちょうどそのとき、私は甚助の小屋裏の畑
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