寛《ゆる》くすればつけ上る、厳しくすれば怖《お》じけて何を云っても返事もしないようになるのは、彼等の通癖である。
婦人連が彼等にめぐむことに若し成功したら? ほんとうに、彼等の生活の足しになることが出来たら? それはほんとうに結構なことである。
けれども、私にとっては、ただ単純に結構なことではすまないのである。
私は、自分をこの村に関係の深い、この村に尽すべきことを沢山に持っている人間だと思っている。そして、少しずつでもしだした仕事は、失敗しそうになっている。
そこへ、遠くはなれて、てんでんには別に苦しみもせず、さほどの感激も持たない人達のすることが、彼等の上に非常に効果があるとしたら、この自分は、どこまで小さな無意味な者だろう。
私は、彼等とはまるで異った心持で、彼等のいわゆる「福の神の御来光」を待っていた。
ところへ、突然思いがけない事件が持ち上って、村中の者の心を動かした。
それは水車屋《くるまや》の新さんが豆の俵を持ち出して売ってしまったということである。その二俵の豆は、もちろんよそから粉にするように頼まれたものなのである。
親の金を持ち出したり自分の家の物を盗
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