また考えることも出来ないためだ。そういう彼等を見ると、私はいろいろなことを考えさせられた。
「今度のことは好い結果を得るだろうか?」
これが第一私の疑問である。而も直接自分自身が苦しめられている、疑いなのである。
彼等はただ貰いさえすれば好い、くれる分には、どんな物でもいやだとは云わない。
けれども、一枚着物を貰えば、前からの一枚はさっさと着崩して捨ててしまい、よけいな金が入れば下らない物――着ることもないような絹着物だの、靴だの帽子だのという彼等の贅沢品をせっせと買って、ふだん押えられている、金を出して物を買う面白さを充分に貪ってしまうのである。
それ故、五円あろうが十円あろうが、つまりは無いと同じことで、その金で買った物も、しばらくして困りきっては町へ売ってしまう。
金も、物品も、その流通する間をちょっと彼等の所へ止まるに過ぎない。
年中貧しくて、彼等にはただ、ああいう着物も買ったことがあったっけ、あれだけの金も持ったことがあったっけがという記憶だけが、それもぼんやりと遺るばかりなのである。
私はこのごろになって、ほんとに難かしいものだということをつくづく思っている。
前へ
次へ
全123ページ中69ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング