がっているうちに真に困りきったことが持ちあがってしまったのである。
 これは、どんなにしても、二十四日までの間には合いかねるということである。
 これには皆当惑した。泣いても笑っても、もう追付かないので、何もその日にきっかり出来ずとも、最も良い結果を得さえすれば、三日四日の日などを、故《もと》の先生は気にもお止めなさるまいということになって、一週間の猶予が善良なる故牧師の霊から与えられることになった。
 婦人達の口は、暫く故人の厚徳を称え、確かに天国に安まっているという断言に忙しかったのである。
 いよいよ日が迫って、寄附締切りの日には教会の内壁に紙を下げ、一々寄附金額を書き並べた。そして、その下に犇《ひしめ》き合って、
「あら! まあちょっと御覧なさいましよ。あの方はあんなに出していらっしゃる――。さすが何といってもお暮しの好い方は違いますねえ」
と感嘆する婦人連の間を、筆頭に、
「一金百円也。会長閣下」
と書かれた山田夫人が、気違いのように肩を振り振り歩き廻って、何か云われる毎に、
「いいえ、どう致しまして。お恥かしいんでございますよ」
と云いながら、一金百円也を睨み上げた。
 す
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