の祟りが恐ろしいというのが最大原因であったのだ。
彼女は四十余りの大変肥って背の低い人である。化粧に使う鏡は丁度胸ぐらいまでしか映らないものだったので、帯から上と下とはまるで別人のような恰好をしている人である。大きな束髪と耳朶《みみたぶ》や頸がぶちまだらではあっても念入りな彼女の「ちっともかまいません」化粧と、大きな帯で坐っているときの夫人は、実に素晴らしいものだけれども、一旦立とうものなら中心を失ったように大きな重そうな、上半身は内輪にチョコチョコ運ぶ足では、到底支えきれなさそうだ。肩を互い違いに前後に振る癖は、晴れの場所を通るとき、極りが悪いような気もするが、随分得意のときに特別ひどくなって、息のつまりそうな頭をフラフラさせ、千切《ちぎ》れそうに体を振って行く様子を見ると、どんなに敵意を持った者の心でも和らげられてしまう。彼女は、自分が押しも押されぬ会長様と定まってからは、もうすっかり落着いて、ただ人の口の端にのぼる類ない自分の令聞を小耳に挾んでは満足げに、うなずいていた。
そして町長の夫人が二年前に死去したのは、何という感謝すべきことかと、人知れずその墓に詣でたのである。若し
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