かなければいけないということである。殊に、その候補者の中には自分をも加えている自信ある夫人達は、熱心にその必要を称えたのである。
女の仕事はとかく事務的でない、責任を感じないといわれているのだから、私共は時局に鑑《かんが》みて出来るだけ完全なことをしなければならないと思いますがということが、だんだん大きな声になって来たので、とうとうすべてを選出することになった。これは益々町を只事でなくした。会長、副会長の望みのない者は、せめて一歩でも誰々の上に出ようとする。甲が思えば乙も願っているので、互の要求が衝突する。表面が平穏でありいわゆる婦人のつつましやかに被われていればいるほど、内輪では青くなり赤くなりして、自分の良人はあの人のよりは上役なのだからと、狭い郡役所の二階でほか役にも立たない権利までも利用して掛ったのである。そして、散々ごたついた末ようよう役割りが定まって、事がどうやら落着いた。もちろん小さい不平は決して納まった訳ではない。会長に選まれた婦人は、町で一番大きな病院長の夫人で山田院長夫人と呼ばれていた。別に力量がある訳でもなしするけれども、若し彼女の野心を満たして置かないと、あと
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