でも「ほどこし」をしようということになった。
故人が、貧民救済には、随分心を用いていたのだけれども、多用だったり、基金が無かったりして、意のままにはならないで終ってしまったから、自分達がその遺志を継ぐのは当然のことであるというのであった。
婦人達は皆勢づいた。そして、早速刷物を作って、町中の少くとも誰さんといわれるほどの人へは、残らず配付して、お志の御寄附を勧誘したのである。
その珍しい印刷物を手にした者は、皆様々の思いに打たれた。或る者は喜び、或る者は身に及ばないことではあるが、どうかして仲間から脱けたくないものだという苦しさに迫られた。
町中はこの噂で一杯になり、町が始まってから初めてのことだといっても好いくらい、女の人の仕事の稀なこの土地では、天道様が地面から出たような騒ぎであった。
けれども、じきに種々な苦情が起って来て、関係者を非常に困らせた。
それは、こんな女が委員だとか何だとか、麗々しく名を出しているのに、一体私はどうしたのだ、というようなことから、誰彼の差別なく名を並べて置くよりは、会長とか副会長とかから、末は馳《はし》り使《つか》いまで明かな役名をつけて置
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