知っているような噂や繰言《くりごと》をじいっとして聞かなければならないのは、ほんとにたまらなかった。
 どうせ、出された物だというように、腹がダブダブするほど茶を飲み菓子をつまんでいる彼等を見ると、私はほとほと途方に暮れたような気がした。
 幾分あきらめたような、希望のあるような心持で、秋風が立つと、祖母がやることにきめている着物の地を染めたり、絞ったりしながら、自分のしていることが自分で分らなくなって来たのを感じていたのである。

        十二

 私の周囲がこのような状態にあるうちに、町の婦人連の間には、或る計画が起っていた。
 町の東北隅に新教の基督《キリスト》教会がある。創立後まださほどの年数は経っていないのだけれども、繁昌するという点に於ては、成功していた。
 初めてここに来た外国人の代には、真面目な信者が少しずつ集るくらいのことで、至極目にも立たないものだったけれども、すぐその後を受けて来た牧師は、非常に気軽な男で「なあにあなた、私共だって人間ですからなあ」というような調子であった。
 それが、町のいわゆる奥様連の同情を得て「面白い牧師さんですわね」ということから、
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