ので、どんなにしてやったところで、また飲まれてしまうのが落ちだという気がした。
 それに、何に五円要るのだかと云っても、はっきり訳も云わないので、益々私の疑は深くなった。で、私は自分の金は一文も持っていない米喰虫なのだから、今直ぐどうして遣ることも出来ないと断ったのであった。
 けれども、彼の方では、まだお世辞が利かないせいだとでも思ったと見えて、思わず笑い出すほど、下らないことまで大げさに有難がったり、びっくりしたりして喋り立てるので、私はもう真面目に聞いていられなくなった。
 私は、笑って笑って笑い抜いてしまったので、彼も何ぼ何でも自分の口から出まかせに気が付いたと見えて、ニヤニヤ要領を得ない笑いを洩して、うやむやのうちに喋り損をして帰って行ってしまった。
 このことは、初めから終りまで馬鹿馬鹿しさで一貫してはいるが、彼が今無ければどうなるというほどでもない金を「若しあわよくば」というような下心で「せびって見た」というような様子に気が付くと、ただの笑いごとではなかった。
 若しも、私が出してやりでもしようなら、誰も彼もが皆|体《てい》の好い騙《かた》りになってしまいそうだ。
 私の
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