に、意気地がなくなって、自分より二十近く年下の後妻に、おとなしく使われているので、皆の物笑いになっている。
その彼が、祖母が墓参に行った留守へ来たのである。
大の男がたった五円の金を貰おうとして、幾度お辞儀をし、哀れみを乞うたことか!
彼は、命にかけてお願いするとか、御恩は一生忘れないとか、それはそれは歯の浮くように人を持ちあげた口吻で、
「お嬢様のおためにゃあ火水も厭いましねえ、はい、そりゃほんのことでござりやす」
と繰返し繰返し云った。
生れて初めて直接に金を借りようとする者の、極端に己れを低めた言葉態度を見た私は、妙な極り悪さと、自分自身の滑稽らしさとに苦しめられたのである。
愚にもつかない讃辞を呈せられたり、おだてられたりするのを、別にどうしようでもなく、どうしよう力もなく、聞いてすました様子をしている、こんな小っぽけな一文なしの私は、それを知っていて見たらどんなにみっともなくもまた、馬鹿らしく見えたことであろう。私は、前からよく女中に、私共の遺[#「遺」はママ]っている食物なども、大抵は彼等夫婦で食べてしまって、肝腎の病人には届かないときが多いということを聞いていた
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