になかったことだがねえ」
と、つぶやくのを聞かなければならないのである。
私は、自分のしたことは間違っていなかったと断言出来る。そしてまた、一方では、彼等がこうなるように心を誘われたのは決して無理ではないと思う。
そうすれば、結局どっちの遣りようが悪かったのだろう? 私は心の命ずるままにしたのだ。彼等もまた必要上、しなければならないような境遇にいたのだ。両方ながら「そうしなければならないから」したのではないか? 彼等もこうならずにはいられなかったのだろうし、私もまたああしなければいられなかったのだ。或は、私の方がこうなる機会を与えたようなものだから、間違っていたかもしれないとも思っては見たけれども、そうだと断定することは出来ない。彼等が間違っていたのかということにも「そうにきまっているじゃあないか」とそれほどの断言は下されない。つまり私には分らないのである。
このことは、私に種々なことを考えさせた。そして、世の中の多くの多くの事件が、いわゆる明快なる判断力で、まるで何といって好いか素晴らしい無造作で、ドシドシと片づいているのが恐ろしいようになった。けれども、私は、このように種々の
前へ
次へ
全123ページ中54ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング