で、私は今度のことを、すぐと明るい方にばかり考えたのである。これからは、畑泥棒などという者は、影も見せないようになるだろうということは、決して空想ばかりではなく思われた。
けれども、一日二日と経つままに、私の考えていたことは、やはり「実現し得ざる理想」――「お嬢様のお考え」に過ぎなかったということが分って来た。耕地には前にも増して屡々多量ずつの盗難が起るようになったのである。而も大びらに、生々した玉蜀黍が踏み折られていたり、今までは無事でいた枝豆まで根こそぎなくなってしまったり、家から遠くあなたにある池からは、慈姑《くわい》がすっかり盗まれてさえいた。
この有様に私はすっかりまごついてしまった。どうかして、誰一人厭な目を見ないで、納まりをつけてしまいたい。
けれども、これにはどうしたら好いのかということになれば何一つ私には分っていないのである。
まるで、真暗な中で、どこにあるか分らないマッチと手燭を捜しているようで、世馴れない心は、すっかり気味が悪くなり、おびえてしまった。
その上、何か一つ盗られる度に祖母が、さも辛そうにまた皮肉に、
「今まではなかったこった。ああほんと
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