ウロとそこいら中を、嗅ぎまわった。
 横に垂れ下った舌や、薄い皮の中から見えている肋骨が、ブルブル震えたり、喘いだりしているのである。
 この不意の出来事に、子供等は皆立ち上った。そして、一番年上の子は、火の盛《さかん》に燃えついている木株を炉から持ち上げるや否や、犬を目がけて、力一杯投げつけた。投げられた木株は、ヘラヘラ焔をはきながら、犬の後足の直ぐのところに、大きな音と火花を散らして転げたので、低い驚きの叫びを上げながら、犬は体を長く延して、一飛びに戸外《そと》へ逃げ去ってしまった。
 木株の火は消えて、フーフーと、激しい煙が立ちはじめた。
 この小さい騒ぎを挾んで、彼等の待遠い時は、極めてのろのろと這って行った。
 けれども、ようよう鍋の中から、グツグツという嬉しい音がし始めると、皆の顔は急に明るくなり、微笑した眼が幾度も幾度も蓋を上げては、覗き込んだ。
 これから暫くすると、一番の兄は、まだ朝の食物があっち、こっちに、こびり付いている椀を持って来て、炉の辺に並べた。これから、このホコホコと心を有頂天にさせるような香りのする薯が分けられようと、いうのである。
 一つ二つ三つ四つ。
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