皆同じように「若し俺ら独りで、こんだけの薯が食えたらなあ」と思い、平常はいなければならない兄弟共も、こんなときには何という邪魔になることかと、しみじみと感じていたのである。それだもんで、いつの間にか鶏共が俵の破れから嘴《くちばし》を突込んで、常に親父から、一粒でももったいなくすると目が潰れるぞと、かたく戒められている米粒を、拾い食いしているのなどに、気の付こう筈はなかった。
鶏共と子供達とは、てんでに自分等の食物のことばかりに気を奪われていたのである。
ところへさっきから入口の所で、ジイッとこの様子を眺めていた野良犬が、何を思ったか、いきなり恐ろしい勢で礫《つぶて》のように、鶏の群へ躍り込んだ。
珍らしい米の味に現《うつつ》を抜かしていた鶏共は、この意外な敵の来襲に、どのくらい度胆を抜かれたことだろう! コケーッコッコッコッコッ、コケーッコッコッコッコッという耳を刺すような悲鳴。バタバタバタバタと空しく羽叩きをする響などが、家中の空気を動揺させ、静まっていた塵は、一杯に飛び拡がった。
あまり騒動が激しいので、かえって犬の方がまごついてしまって、濡れた鼻で地面をこすりながら、ウロ
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