、臭く貧しいうちに、三人の男の子が炉辺に集って、自分等の食物が煮えるのを、今か今かと、待ちくたびれている。
 或る者は、頭の下に敷いた一方の手を延して、燃えかけの枝で、とろくなった火を掻きまわして、溜息を吐く。或る者は、さも待遠そうに細い足をバタバタ動かしながら、まだ湯気さえも上らない鍋の中と、兄弟共の顔を、盗み視ている。けれども誰一人口をきく者は無く、皆この上ない熱心さで、粗野な瞳を輝かせながらただ、目前に煮えようとしている薯《いも》のことばっかりを、考えているのである。
 逞《たくま》しい想像力で、やがて自分等の食うべき物の、色、形、臭いを想うと、彼等の眠っていた唾腺は、急に呼び醒《さ》まされて、忽ち舌の根にはジクジクと唾が湧き出し、頬《ほっ》ぺたの下の方が、泣きたいほど痛くなる。彼等は、頭が痛いような思いをしながら、折々ゴクリ、ゴクリと喉を鳴らし合っていた。
 子供等は年中腹を空かしている。腹が張るということを曾てちっとも知らない彼等は、明けても暮れても「食いたい食いたい」という欲にばっかり攻められて、食物のことになると、自分等の本性を失ってがつがつする。
 今も彼等三人が三人、
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