れなければならないのか?
 それは解らないことでございます。
 けれども、私はどうぞして倒れ得る者になりとうございます。地響を立てて倒れ得る者になりとうございます。そして、たといどんなに傷はついても、また何か掴んで起き上り、あの広い、あの窮《きわま》りない大空を仰いで、心から微笑出来ましたとき! その時こそどうぞ先生も、御一緒に心からうなずいて下さいませ。
  一九一七年三月十七日  著 者[#「著 者」は天より40字下げ、地より2字上げ]
[#ここで字下げ終わり]

        一

 村の南北に通じる往還《おうかん》に沿って、一軒の農家がある。人間の住居というよりも、むしろ何かの巣といった方が、よほど適当しているほど穢い家の中は、窓が少いので非常に暗い。
 三坪ほどの土間には、家中の雑具が散らかって、梁の上の暑そうな鳥屋《とや》では、産褥《さんじょく》にいる牝鶏のククククククと喉を鳴らしているのが聞える。
 壁際に下っている鶏用の丸木枝の階子《はしご》の、糞や抜け毛の白く黄色く付いた段々には、痩せた雄鶏がちょいと止まって、天井の牝鶏の番をしている。
 すべてのものが、むさ苦しく
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