縞のある西洋南瓜を前にころがして、うなだれて立っているのは、かの甚助じゃあないか!
 私は、自分の眼が信じられなかった。また信じたくなかったけれども、悲しい哉それは間違いようもない甚助だ。
 私は、おずおず彼の顔を見た。そして、その平気らしい様子に一層びっくりしたのである。
 ほんとうに何でもなさそうに彼はただ立っている。ただ頭を下げているだけなのである。
 だまって、祖母の怒った顔を馬鹿にしたように上目で見ている。
 私は恐ろしい心持がした。彼はそうやって立っている。が、私共はこれから一体どうしようというのだろう?
 祖母も私も彼に何か云おうとしていることだけは確かだと思った。
 しかも、さも何でも権利を持っているように、またさもそれを振り廻して見たそうにして立っている自分等に気が付いた。
 私共はきっと何か云うのだろう。何か悪事だといわれていることをしている者を見つけた者が、誰でもする通りの、妙に慰むようにのろのろと、叱ったり、おどしたりするのだろう。
 けれども、彼は私共に見られたくないところを見つけられた。それだけでも十分ではないか? この上何を云うに及ぼう? 千人が千人云い古
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