した言葉を、クドクドと繰返して、荒立った心持になって見たところで互の心には何が遺《のこ》るだろう。やはり持ち古された感じが、さほどの効果もなく喰い入るばかりである。
私のすることはただ一つだ。
何から先に云って好いか分らないようにしている祖母を、わきに引きよせて、私は一生懸命にたのんだ。
「どうぞそのまんまお帰しなさいまし。その方が好い」
「だって……お前!」
「いいえ! それで好いんだから。きっと好いにきまっているんだから早くそうなさいまし。よ。早く!」
祖母は不平らしかったけれども私の頼みを聴いてくれた。
「それを持ってお帰り。けれどもこんなことは、もう二度とおしでない」
と云っただけであった。
甚助は、さもこうなることをちゃんと前から知ってでもいるように、何の感情も動かされないらしい顔をして、頭を一つ下げると、自分が買ったもののように、ゆったりとかの南瓜を抱えてまだ人通りのない往還へ出て行ってしまったのである。
私は、悲しいとも腹が立つともいえない心持になっていた。
けれども幾分の安心を持って、
「私にはたった一つの南瓜で、泥棒呼わりをすることは出来ない」
と心に繰返
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