て珍らしいことではないが、皆の気持を悪くさせた。
 盗まれて行く物は少しばかりの物であるけれども、自分等の尽した面倒だの愛情などを、取って行かれるのがよけい腹立たしかったのである。
 で、一日掛りで、一番よく無くなる南瓜に一つ一つ、大きな大きな番号をつけた。
 ふくれ返った赤ら顔の上一杯に、「八」とか「十一」とか筆太に書かれて、ごろっとしている姿は実に見物だった。けれども、皆無駄骨になって、翌朝になれば、中でも大きい方のが無くなっていたりした。
 下女等は一番口惜しがって、ちょっとでも畑地の中にウロウロしている者には、誰彼なしに、怒鳴りつけたり、小石をぶつけたりした。
 正直な彼女は、坐るときはいつも畑地に向いて張番をしていた。
 そんなだったので、私などでさえ夜ちょっと気晴らしに歩いて、うっかり畑に立ちどまっていたりすると大きな声で、
「だんだあ! ぶっぱたくぞーッ」
と叱られたことさえあった。
 ところが或る非常に靄の濃い朝であった。
 多分四時頃であったろう。私は、例の通り何も知らずに寝込んでいると、低いながら只事でない声で、
「早くお起き。よ! ちょっとお起き!」
と云う祖母の
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