い力で、グニャッとしたものをまるめると、押し潰されてとび出したドロドロに滑らかな、腐った薯が、手一杯についてしまったのである。
青黄色い粘液から、胸の悪くなるような臭いが立って、たまらない心持になるので、私は大急ぎで、サクサクな泥の中に両手を突込んで、揉み落そうとした。
けれども、前からの土がそのドロドロですっかり固まりついたので、なかなかこするぐらいでは落ちようともしない。私は、もううんざりして、泣き出しそうにしていると、笑いながら馳けつけて来た男が、木の切れを横にして、茶椀の葛湯《くずゆ》をはがすように掻き落してくれた。
「大丈夫でやす、お嬢様。命に関わるこたあありゃせん」
私の周囲には、家の者だのそばの畑にいた小作共まで集って、笑っていたのである。
ちょいちょいした物が収穫時になって来たので、私共は毎日割合に農民的な生活をした。
取れた物を小作に分けてやったり、漬けたり乾したり、俵につめたりにせわしかった。
けれども、それにつれてほんとにいやなことも起って来た。
ちっとも気の付かないうちに、畑泥棒に入られることである。
もちろんこんなことは、毎年のことである。決し
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