《そば》の花のまぶしい銀色の上に、流れて行く雲の影が照ったり曇ったりした。
 食べられるようになった杏《あんず》、無花果《いちじく》などの果樹畑のそばから、ゆるい傾斜になった南瓜《かぼちゃ》の畑は、大きな葉かげに赤い大きな実が美しく、馬鈴薯は、収穫時になったのである。
 二人の小作男は、俵と三本鍬と「もっこ」とを持って、朝早くから集った。
 葉のしなびかかった茎を抜き、その後を三本鍬で起して行く。
 背の低い、片目の男が、深く差し込んだ鍬をソーット上の方へ持ちあげて引くと、新しい土にしっとりと包まれた大小の実が踊るように転がり出す。
 それにつれて、思いがけず掘り出された、小さい螻共《けらども》は、滑稽なあわて方をして、男達の股引に這い上ったり、さかさになって軟かい泥の中に、飛び込んだりした。
 私も裸足になり裾をからげて、一生懸命に薯掘りを始めた。
 割合に風の涼しい日だったので、仕事は大変面白かった。
 泥の塊りを手の中で揉んでは、出て来る薯を一つ一つもっこのなかへ投げて行くと、どうかした拍子に恐ろしく妙な物を、手のうちにまるめ込んでしまった。
 私は思わず大声をあげた。止められな
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