ヤニヤしながら、顔を見合っていたが、中の一人が、おかしい訛のある調子で、
「ちっともとれねえのね」
と口真似をした。
 このいたずらはすっかり私を喜ばせた。
 彼等がそんなことをするくらい私に、馴染《なじ》んで来たのかと思うと嬉しかったので、私はしきりにほめた。
 子供達は、私の笑う顔を薄笑いして見ていたが、急に持って来た鍋や網をとりあげると、何かしめし合せて調子を合せると一時に、
「ほいと! ほいと! ほいとおーっ!」
と叫んだ。
 そして崩れるように笑うと、岸の粘土《ねばつち》に深くついた馬の足跡にすべり込みながら、サッサと馳けて行ってしまったのである。
 私は、何が何だか分らなかったけれども、ぼんやり川面《かわづら》をながめながら、非常に生々と快く響いた彼等の合唱を心のうちで繰返した。
「ほいと! ほいと! ほいとおーっ!」
 私は小声で口誦《くちずさ》みながら家に帰った。
 そして誰もいない自分の書斎に坐ると、あの子等のしたように大きな口をあけて叫んで見た。
「ほいと! ほいと! ほいとおーっ!」
 ところへ、祖母が珍らしく妙に不機嫌な顔をして入って来て云った。
「お前は一体何
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