屈そうに並んでいる。
 私は、正直そうなどちらかといえば愚直だといえるほどの顔をまじまじ眺めていると、益々あの自分の我儘に己を枉げてくれた教師と非常に似ているように思えて来た。
 で、私は立ち上った。そして、微笑を浮べながら丁寧なお辞儀をした。
 私は満足した。けれども、若者は非常にまごついたらしかった。妙な顔をして、大いそぎで窓わくのそばから離れて、彼方に見えなくなってしまったのである。
 彼は私がふざけたのだと思ったかもしれない。
 けれども、これで、今もなおどこかの空の下で今この同じ日の光りを浴びながら生きているあの日の若い教師に対して、自分はしなければならなかったものを、ようやく果たしたような気がした。
 私はまた幾分か心が安らかになった。そして元来た道を戻って、小川の所へ行って見た。いつも誰かが魚をすくっているそこに今日は甚助の子供達が来ていた。
 子供達は熱心にしていたけれども、流れの工合が悪かったと見えて、網に掛るものは塵《ごみ》ばっかりである。
 暫くだまっていた私はフト、
「ちっともとれないのね」
と云った。
 そのとき、初めて私がいるのに気が付いたらしい子供達は皆ニ
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