に暗い者の上に私はそろそろと自分のかすかな同情を濺《そそ》ぎはじめたのである。
 もとより私のすることは実に小さいことばかりである。私が力一杯振りしぼってしたことであっても、世の中のことに混れば、どうなったか分らなくなるようなものであるのは、自分でも知っている。
 けれども、私は愉快であった。
 自分は彼等のことを思っているのだということだけでも、私はかなりの快さを感じていたほどである。
 毎日毎日を私は、新しく見出した仕事に没頭して、満足しながら過していたのである。
 けれども、たった一つ私にはほんとに辛いことがあった。それは、善馬鹿の子の顔を見ることである。誰も遊び相手もなく、道傍の木になどよりかかりながらしょんぼりと佇んでいる様子を見ると、ほんとに私は苦しめられた。
 何とか云ってやりたい、どうにかしてやりたい。私はほんとにそう思う。
 が、彼の痩せた体や、妙に陰惨な表情をした醜い顔を見ると、何もしないうちにもう、堪らない妙な心持になって来る。
 彼の眼つきはすっかり私を恐れさせる。私は、彼の傍を落付いて通ることさえ出来ないのであった。
 何だか今にも飛付いて頸を締められそうな気
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