どもさせ、ちょいちょい古い着物や何かをやった。彼女は私に対して好くは思っているらしいけれども、ひどく貧乏で、恥も外聞もない慾張りな様子が少からず私には気持悪かった。
食べる物でも、膳にのせてやった物ばかりでなく、残り物があったらどうせ腐るのだからくれろと、ぐんぐん持って行く。そんなときに、若しやらないなどと云おうものなら、もうすっかり不機嫌になってポンポンろくに挨拶もしないで帰ってしまうのである。新しい着物でも着ていると、一つ一つ引っぱってみないでは置かない。
そんなことがほんとにたまらなく厭であったけれども、私は、貧しい者のうちに入って行こうとしながら、品振《ひんぶ》っている自分を叱り叱りしてようよう馴れるまでに堪えたのである。
善馬鹿のおふくろが、今までより屡々《しばしば》出入りするようになると共に、だんだん村中の貧しい中でも貧しい者共に接する機会が多く与えられるようになった。
親父は酒飲みで、後妻は酌婦上りの女で、娘は三年前から肺病で、もう到底助かる見込みはないと云うような桶屋の家族。
中気《ちゅうき》で腰の立たない男と聾の夫婦。
それ等の、絶えず愚痴をこぼし、みじめ
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