剥がれた馬の怨霊《おんりょう》の仕業なのだから、十円出せば祈り伏せてやるとのことだったそうだけれども、婆にその金の出せよう筈はない。それで、払い落してもらうことは出来ず、またもうそれっきり医者にもかけず、自分でさえ出来るだけは忘れるしがくをしていた。
このような有様で、狒々婆はいやでも応でも食うだけのことはしなければならないので、他家の手伝いや洗濯などをして廻っている。そして、三度の食事は皆どこかですませて、自分の家へはただ眠るだけに帰るので、村中からいやしめられて、何ぞといっては悪い例にばかり引き出されていた。
可哀そうがられるために、自分の年も二つ三つは多く云っているとさえ噂されているのである。
私は、たださえ貧乏な村人のおかげで、ようようどうやら露命をつないでいる婆が気の毒であった。境遇上そうでもしなければ外に生きようがないのだから、ただ馬鹿にしたり酷《ひど》く云ったりすることは出来ない。もうよぼよぼになって先が見えているのに、朝から晩まで他人の家を経廻《へめぐ》って、気がねな飯を食わなければならないのを思うと可哀そうになる。
で、私は出来るだけ婆に用を云いつけて、食事な
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