いて来たりしていると、東側の土間に一人の女が訪ねて来た。それは、甚助の女房であった。
 私に来てくれと云うので、出て見ると働き着を着て大変にボサボサな髪をした彼女は裸足で立っている。
 女は、私の顔を見ると、
「お早うござりやす。昨日《きんのう》は、はあ俺《お》ら家《げ》の餓鬼共が飛んでもねえ御無礼を致しやしたそうでなえ。おわびに出やした。これ! こけえ出てわび云うもんだぞ――」
と、云いながら手を後に伸ばすと、広い背のかげから、思いがけず男の子が引き出された。
 彼は黙って下を向いている。赤面もせず、ウジウジもせず、ちっとも母親にたよるような様子をしないでつくねんと立っている。
 女は、子供の方へ複雑な流し目をくれながら、しきりに繰返し繰返し勘弁してくれとか、自分等の子達は畜生同様なのだから、どうぞこらしめにうんと擲ってやってくれなどとまで云った。
 けれども私は、人にあまりあやまられたりすることは大嫌いである。自分の前にすべてを投げ出したようにしていろいろ云われると、仕舞いには、自分が恥しくなって来る。何だか、いかにも自分が暴君じみているように思われて、いつも母の云う「いくじなしの
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