開拓者自身は、或る程度まで自分の希望を満たし、喜ばされ、なおその村の歴史上の人物として称揚されるけれども、はかない移住民として、彼の事業の最後の最も必要な条件を充たしてくれた、沢山の貧しい者共は、どのような報いを得ているか?
開墾者にとっては、いなければならなかった彼等でありながら、二十年近い今日まで彼等はただ同じように貧乏なだけである。年中貧しく忘れられて死んで行くだけである。
私は、祖父の時代からの沢山の貧しい者に対して、どうしても何かしなければならない。今日まで、すべきことは沢山あったのに、臆病な自分が見ない振りをして来たのだというような気の済まなさが、農民に対する自分の心を、非常に謙譲なものにしたのである。
甚助の子が、私にいたずらをした次の日であった。平常より早く目を覚まし、畑地を一廻りして来た私はほのぼのと天地を包んでいる薔薇色の靄《もや》や、裸の足の上に朝露をはね上げて、生々としている雑草の肌触り、作物や樹木の朝明けの薫りなどに、どのくらい慰められたことであろう!
非常に愉快な心持になって、女中に笑われながら、大炉に焚火《たきび》をしたり、いりもしない野菜を抜
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