お前」になり終《おお》せてしまう。
今も、その癖が出たとともに、もうどの子が何をしたとか、憎らしいとかいうことは出来るだけ忘れようとつとめ、また実際気にもならなくなっているので、そんなにされることはよけいいやであった。
で、私が口を酸《すっぱ》くして叱るのをやめろと云っても、彼女《かれ》の方ではそれをあてこすりだと思っているとみえて、だんだん子供にひどくする。
「食うてばかりけつかってからに、碌《ろく》なことーしでかさねえ奴だら。これ! わびしな。勘弁してやっとよ、何とか云いなてば」
と、子供の腕を掴んで、小突《こづ》いたり何かしても、子供の方でもまた強情なだんまりを守っている。
私には、甚助の女房がどんな心持でいるかよく分った。分っただけに、そんな謂《い》わば芝居を見ているのは辛い。
私の云うことなどには耳もかさずに、怒鳴っていた彼女は、
「これ! どうしたんだ? う? おわびしねえつむりなんけ?」
と云うと、いきなり大きな掌で、頸骨が折れただろうと思うほど急に子供の首を突き曲げた。
そして、
「どうぞ御免なして下さりやせ」
と云うや否や、
「行っとれ!」
と叫んで突飛ばし
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