むと、二人はまた家さがしに出かけた。房は、やっと朝の快い静けさを味わおうと坐ったばかりのところへ、一旦出た志野が戻って来た。
「なあに――忘れもの?」
「あなた小銭もってない? いくらでもいいのよ、一日かして」
「あの人持ってないの」
「うん、困っちゃう。――持ってるだろうと思ったら、空々なんだもの――」
房は、六十銭渡した。
目白の方に、いよいよ家が見つかった。志野は帰ると、眠るまでその家のことを喋り通した。
「ね、嘘だと思ったら行って御覧なさい、全くいいったらないのよ、駅から直きだし、日当りはいいし、新しいし。三軒建った真中だから要心も大丈夫なの――あなた、本当にいらっしゃい、ここなんかと空気は比べもんにならないわ」
「――有難う――でも私やめるわ」
「何故? 折角三人で賑やかに暮そうと思ってるのに――部屋だって、ちゃんとあなたの分があるのにさ」
「まあ二人だけで暮す方がいいわよ」
「――詰んないわ、それじゃ」
志野の引越の日、房は須田に行っていた。志野のために、結局利用されたようなところも決してなくはないのに、別れるとなると房は辛かった。荷物の出てゆくのを見る気がしなかった
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