いと頭をあげて二人を見た。
「ふわあ、恐ろしや」
 これには房も笑った。
「さ、また明日があるから寝ましょうか。――今夜、純吉さん泊めてよ」
「夜具は?」
「いいわ、どうだってなるわよ、ね?」
「うん」
 房は、東窓を足にし、志野は西を足にし、大垣と床についた。志野は床の中へ塩豌豆の袋を持ち込んだ。
「――どうあなたもたべない」
という声を、房は夢現にきいた。
 翌日は、爽やかな好い天気であった。志野が勢よく朝飯の仕度をした。
「私一寸、おみおつけの実買って来るわ」
 志野が出て行くと、大垣は、房が髪結うのを側に立って眺めた。
「君の髪、立派だなあ、こんなにあるとは思わなかった。あいつなんて、猫の尻尾みたいだ」
 大垣は、ずっと傍によって来た。
「一寸いじらしてくれない」
「何云うのよ。――邪魔だからそっちへどいてなさいよ、男のくせに」
「は、は、男だから、さ。全く髪のいいのいいな。早く君に会ってりゃよかった、あんな棕櫚箒みたいなの!」
 房は不快になり、強い声を出した。
「あなたいやな人ね、案外。五分もいないと直ぐお志野さんの悪口なんぞ云う。承知しないから」
 変に落着かない朝飯がす
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