って、行って見たけど、駄目よ、やっぱり」
「――郊外へ行けばいいんだろうけどね」
「いやいや郊外はいや。――今日は。ギュ、と殺されたりするの私御免さ」
 彼等は、薄暗い露台の方で顔を拭いた。
「――お房さん、ずっといたの? うちに――」
「一寸出たわ」
「明日降られちゃやりきれないな」
 大垣が先に室に戻った。彼は、房がやっている絹糸の編物に触った。
「お房さん、編物がお得意だな、この前のと違うんでしょう、これ」
「違うわ」
「何なの? 何が違うって?」
 志野が遠くから口を挾んだ。
「編物さ――冬んなったら、僕も一つしゃれた襟巻でも編んで貰おうかな」
 髪をかき上げながら入って来た志野が、
「襟巻なんぞなら、私編んだげてよ」
と云った。
「ほほう」
 志野は、さっと赧くなった。
「何が、ほほう?」
「――ほほうだから、ほほう、さ」
「こいつめ!」
「静かにしなさいよ! 今頃」
 ふざけかけた二人は、びっくりしておとなしくなった。房は、むっとしたように下を向いたまんま、途方もなく速く編針を動かしている。志野が、くつくつ笑い、大垣に目交せした。大垣もにやにやして頷いた。その途端、房がひょ
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