、頻りに金の勘定をしていた。
「――困っちゃったな、私……」
房は黙っていた。
「ね、お房さん、私お金足りないわ、下へやる――」
「月給どうしたの」
「先月局の人に借りてた分をかえしたし、それに、出て歩いたり、あの人に袖買ってやったりしたから――」
志野は、この間大垣にルビーの入った指環を貰った。その代り、彼がセルの下に着るという見たところ絽の袖を縫ってやっていた。
「――すまないけど、どうか今月だけ三円よけいに出しといてくれない?」
「…………」
「本当にあなたを当にしたようで悪いけど、勘弁してね。私下のお神さんに、それ見ろ、間代も払えないと思われるの癪なんだもの」
「あなた、ちっともお裁縫もしない罰よ」
「そうなの。だってこの頃――特別なんだもの。その代り家を持ったら、私二月でも三月でも置いたげてよ。ね、二度と云わないから、ね」
大垣が盛に出入りするようになってから、房は経済的に迷惑を蒙った。志野は、大垣をもてなすためには、自分のもの、他人のもの、見境がなくなるらしかった。大垣も亦、そういう点では大してやかましやでなかった。二人とも、実に見事な消化力を持っている。いつの間にか
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