よ、ハハハハ」
「本当にそうだわ。ね、あの鈴木さんなんかどうかしら」
「そうさな」
「よかない? お房さん確かりした男らしい人がすきなんだわね、鈴木さん、弓が上手いんですって」
「やめて頂戴よ」
房は片腹痛く苦笑した。
「自分達の都合がわるいからって、無理やり弓の上手な人なんか見つけて来てくれなくたっていいわよ」
「どうも降参だね、お房さんに会っちゃ」
志野が、
「あああ」
と、白い拳で胸をたたきながら云った。
「余り笑ったんですっかり喉がからからんなっちゃった――何か飲みたい」
湯を沸しているうちに、志野は房が買って置いたココアの罐を見つけた。彼女は、露台の流し元から声をかけた。
「お房さん、何にもないから、一寸このココア貸して頂戴な」
志野は、甘い甘いココアを拵えて来た。
「ああ美味しい。どう、もう一杯欲しくない」
「うん、もう少し濃くして」
「あなたは――お房さん」
「もう沢山」
「ああ、こんなものがあった。これも出していい?」
志野は、房の返事を待たず、一つ二つ口に入れながら、房のとって置きの揚げ餅を大垣に接待した。
六
月末になった。
志野は
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