「そうじゃあないけど――いつまでいたって同じこっちゃあないの」
「そりゃあそう見たいだけど――変ね、どうしたのよ」
「帰らないんなら引越しましょうよ」
やっと、房の気持がほぼ推察され、志野は落着いた様子になった。
「私、妙な性分だから、あなたが何だか噂にとりまかれて、どっちつかずに貧弱な暮しをしてるのが切なくなって来たわ。――そろそろ本気に考えて、働くなら働く、お嫁にでも行くんならそうと、きっぱりした方が本当に身のためだと思ってよ」
「そうなのよ、そりゃあ私だって考えてるわ」
志野は素直に云った。
「全く私なんか半端で仕様がないのよ、局の給料なんぞ、五年勤めたって、安心して暮すだけはとれないものね――局ばかりじゃあないけどそりゃ。どこだってひどいのよ。この頃女一人が誰にもたよらず遣って行けるだけのものをちゃんとくれるとこなんてありゃしないけど――でも、どんなことしたって国へなんぞ帰るもんですか」
「何故よ」
「国へ帰って御覧なさい、私みたいな貧乏人の娘は、どんなことしたって浜人足の女房が関の山よ。その上、ひょっと、ね、いろんなことでも知れて御覧なさい、もう鼻も引かけられやしないわ
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