んじまってよ」
「お暇いただいて、呑気に養生するわ」
 志野は、顔をしかめるようにして尋ねた。
「養生するって――どうするのあなた、今の家やめたら……困るでしょう」
「三月や四月遊ぶ位のことは出来るのよ」
 二人は、それぎり黙って、房の土産のバナナを食べた。突然、志野が弾んで天井にぶつかりそうな調子で云った。
「いいことがあるわ! あなた、ここへ来るのいや?」
 房は、とっさ、返事に窮した。
「そりゃ、家は随分穢いけど、呑気は呑気よ、なまじっか、素人家にいるよりよくてよ。室だってちゃんと一つ一つ区切れてるから。――私は、どうせ昼間一杯留守なんだから、あなたの好き自由だし――あなただっていきなり知りもしないところで間借りしたって、きっと淋しくって仕様がないに定ってるわ」
 それは、図星であった。房は、勝気だが神経質で、貸間の女主などが、勤めにも出ず、あまり金持とも見えない弱そうな自分をどんなに観察するか、それを想うと、実際躊躇していたのだ。
「それに第一、一人で暮すよりどんなにか経済よ」
 志野は、打明けた、飾りない言葉で話した。
「私だって、まるで助かっちゃうわ――局の月給なんて、たっ
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