た、あなた二十八円よ、室代を十四円とられて御覧なさい、やって行けたものじゃあなくてよ。だから、お裁縫なんかするんだけど――一日根からして働いて来て、また肩を凝らす程やって見たって、ね……若し、あなたさえいやでなかったら本当に来ない? 室代半分助かるわよ、お互に……」
房は、その晩は不決断のまま帰宅した。二三度、縫物を持って往来するうちに、次第に第一印象の暗さが薄らいで来た。却て便利らしい点が残った。須田の子供達にもなつき、ミシンの稽古をさせて貰っていた房は、一時の休養のために、まるきり暇をとりきるのは不本意であった。四五町の場所に室を持ち、気分でもよくなったら運動がてら、中の男の子を迎え位する――ゆとりと、変化も相当ある快い生活法ではあるまいか。
房は、楽しみをもって引移った。
三
初めての日曜日、風の烈しく吹き捲る晴れた日であった。
房は、一吹き荒れる毎にどーっと塵埃を吹きつけ、ガタガタ鳴る露台の硝子の面を靄でもかかるように曇らして行く風勢を眺めていた。
「――こんな風――私始めてだわ」
「ここは特別なのよ何故だか」
志野は、伊達巻だけしめた上に羽織を着
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