くなった。たった二つのお金が、二十銭や十銭の銀貨まぜると四つになった。二十銭だけにすると、五つになる。ほう! そして、母にたのんで十銭銀貨だけにして貰えば一円が十の小さい銀貨に代ってしまう。
「ね、ああちゃん、これもっと違ったお金になる? え? え?」
「そりゃなるよ」
「じゃあ、して」
「ほら」
母さえ幾らか打ち興じて、テーブルの上に大きい厚い五十銭銀貨を一枚先頭に置いて次にそれより小さい二十銭の銀貨、ちびな十銭、白銅が二枚、でっくりの二銭銅貨、一銭、あとぞろりとけちな五厘銅貨を並べた。
「ふーむ」
到頭一円を、百銭にしてしまった。
玄関の横に、三畳の茶室があった。茶をする人がいなかったから、永年その部屋はつかわれず、朝夕雨戸のあけたてをするだけだ。一畳が床の間で、古びた横ものが壁と見境のつかない煤けた色でかかっていた。小さい変な台の上に、泥をこねて拵えたような頸長瓶があって、炉のところには竹を集めた蓋がしてある。狭い狭い場所であった。隅に、客間に使う座布団が置いたりしてある。
茶室へは誰も来ない。そこへ入るだけが、もう気分がどきどきする物珍しいことだ。庭に生えている木賊《と
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