ってくれた。これはその前のこと、そうやって祖母が出て来ると、お土産にきっとお金をくれた。一円くれるのであった。
「おら田舎婆さまで今時の子供は何が好きか分らないごんだ。お前好きなものこれで買え」
 その一円は五十銭の銀貨二枚か札かであった。母は子供が金を持つことは悦ばない。然しこの場合は黙って見ている。
 ふだん金というものを持たないから一円貰ったのは嬉しかった、自分のお金がある――いい心持だ。けれども、一円が沢山なのは分るがどの位沢山なのか、買うとしたら何が買えるか、見当はつかず困ったような気になる。一先ずその金を母にあずけて置く。幾日か経って、
「あのお金ある?」
ときいた。
「ありますよ」
「だして見て」
「どうするんだい」
「どうもしないけど、出して見てよ」
 さあ、と母が出したのは、あずけた時のままの銀貨二枚でなく、殖えていた。母は大人の感情で一円だけの金高を他の銀貨をまぜて揃えたのであった。
 金の分列というか、そうやって同じ一円をいろいろの銀貨や白銅でいろいろの数に多くしたり少くしたり、それでつまり一円に出来る面白さが強く子供の心を捕えた、ものを買える買えないはどうでもよ
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